Dr.さむらのハイパー気まぐれ日記

さむら脳神経クリニックから脳の健康について書いていくつもりですが・・・。

慢性硬膜下血腫の術後合併症

10何年も前の話ですが、入院中の60代の女性の患者さんの意識がど〜んと悪くなってしまいました。

普通意識レベルはJapan Coma Scale(ジャパン・コーマ・スケール以下JCS)を用いて表しますが、自発開眼しているのがⅠ群、刺激で開眼するのがⅡ群、痛覚刺激を与えても開眼しないのがⅢ群です。この中でも更に三つに分かれますが、Ⅲの100は痛覚刺激で払いのけるような合目的的な動きが見られるもの、Ⅲの200は合目的的ではないが手を動かしたり顔をしかめたりするもの、Ⅲの300は反応が全く見られないものと考えて頂ければいいと思います。

私の患者さんの意識レベルをJCSで表すとすると、Ⅲの280くらいでしょうか? そんな表現はありませんが、感覚的に200より悪いけど300までは行ってないみたいな・・・。何が起こっているのかよく分からず、とりあえず頭部CTを撮影してみたんですがはっきりした所見も無く、脳幹部に梗塞でも起こしてしまったのか??? と考えていたら、今度は患者さんの意識が突然ふ〜っと戻ってきたんです。

一体どうなってんの〜とよ〜くCTを見てみますと、なんと両側性に慢性硬膜下血腫が!ほとんど脳と同じ色ですが、いわゆるひとつの「野ウサギの耳サイン」を見落としていたんですね、わたくしとしたことが・・・。早速手術しまして、両方合わせて240ccもの血腫内容を除去しました。

頭蓋内圧はギンギンに上がっていますから、硬膜にプツッとメスの刃を刺して穴を開けると、中の血腫が勢いよく吹き出してきます。脳と骨の間に溜まった悪い血液が出ていってくれるのでどんどん出したいところではありますが、ここで誘惑に負けて血液が吹き出すままにしておくと後で地獄を見ますので、指で押さえてゆっくりゆっくり、ホントに少しずつ少しずつ時間をかけて排液しなければなりません。

もし緩徐に排液せず出るに任せていたら、血腫による圧迫で極度に悪化していた脳循環が改善し、脳内に血液が一気に流れ込んできますので、お年寄りの弱った血管が圧に耐えきれず破れて脳内出血を起こしてしまうのです。このあたりは厳しく指導されますから、そんな合併症が起きた実例は見たことがありませんでしたが、ある時勤務していた病院の古いレントゲン写真を整理して不要なフィルムは廃棄することになって、私は昔勤務していた脳外科のドクターが撮影した頭部CTをチェックしていったんです。すると、頭に穴が1コ開いていて脳と骨の間には若干空気が溜まっていて血腫も少し残っている、どこからどう見ても慢性硬膜下血腫の術後の写真が沢山出てきたんですが、その中に普段見たこともないような変な場所に出血している写真がチラホラ・・・。

それは頭頂葉から後頭葉にかけて、両側性にドバ〜ンと出血した恐ろしい写真でした。慢性硬膜下血腫の術後合併症で起きる脳出血ってこんなになるのか〜と、脳裏に刻まれた一瞬です。おそらく一生見ることはないと思いますが、一生忘れることもないと思います(恐)。



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vol.24
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この記事へのコメント
すごく記憶力がいいですね。
私のCPUのメモリーは・・・・情けない!
だから、今読んでいる本を二度読みする羽目に
本の内容は(数をめぐる脳内ネットワークの不思議な実態など)
を書いた「数覚とはなにか?」 おもわずタイトルにひかれて
買った本です。難関度が高い高い、難しい~。
Posted by merademonn at 2011年05月22日 23:36
merademonnさん、ご訪問ありがとうございます。

「読書百遍意自ずから通ず」ですが、「百聞は一見にしかず」でもあります。私は100回憶えても100回忘れる何とかの分類とか誰々のグレードとか言うのが大の苦手です。

最近は難しい本も敬遠気味で、安易な方向に流れる日々を送っています・・・。
Posted by samurasamura at 2011年05月24日 23:12
 
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