Dr.さむらのハイパー気まぐれ日記

さむら脳神経クリニックから脳の健康について書いていくつもりですが・・・。

絶滅危惧種

と言うコトで、距離の概念を超越したインターネットの世界に足を踏み込みますと、思いもよらない展開が待ち受けていることもあるのでございます。先日女性セブンの記者の方からお電話を頂きまして、くも膜下出血の警告頭痛について話が聞きたいとの事でした。

ちょこっとコメントを載せたいってコトなら、医者なら誰でもいいってわけでは無いでしょうが、脳外科医なんて何千人もいるわけですから、どうして私なんかのところへ電話してきたんでしょうか?不思議に思って聞いてみますと、「ネットで検索して、ブログを見た」んだそうです。

それを聞きまして、空恐ろしくなってきました。だってあ〜た、面識もない不特定多数の見知らぬ方々に、「JALソバ」も「くるさ〜た〜」も「ドリー・パードン」も「イーデス・ハンソン」も見られているのですぞ〜(なら書くなよ)。

で、くも膜下出血について、統計資料を含めていろいろお話しさせて頂きました。実際記事になるのはその中のほんの一言二言だと思いますが、クリニックの名前も私の名前も載っけて下さるというので、ちょっとは宣伝になるかなぁ〜とか・・・。木曜日発売らしいのですが、沖縄では2〜3日後には店頭に並ぶのではないでしょうか?

それはそれでいいのですが、記者の方と話をしながらあまり一般読者の方々の不安をあおるようなコトを情報発信してしまうと、いろいろまずい事になるんじゃないかなぁとちょっと心配になったのです。先日さる高名な脳外科医の講演会で、巨人のキムタクがくも膜下出血で亡くなった後自分もあんなふうになってしまうのではないかと不安を覚えた方々が、まるでバスでもチャーターしたかのごとく大挙して病院へ押し寄せて来て、MRIで詳しく調べて「異常はありません」と結果説明しても納得せず、やれCTも撮れだの脳波も調べろだのと収拾つかない混乱状態に陥ったってコトを言っておられたものですから。

私が不安に感じた点は二つあります。

まず、国民健康保険。国民健康保険の財源にも限りがあるわけですから、不安を解消する為に健康保険を使って検査を受ける方が急増しますと、予算がパンクしてしまいます。必要な方が必要な医療を受けられないような事態になってしまいますと困りますので、ご自分の脳の状態を把握したいとお考えの方は脳ドックをお受けになるようお願いしたいと思います。

もう一つが、実際の診療に従事している脳外科医の負担増。日本の脳外科医は、長時間の手術に加えて夜間の救急対応等の激務をこなし、患者さんのベッドサイドへ行ったり病状説明をしたりする時間すらも削られる状態で診療しているのが実状です。私の外来にいらっしゃる患者さんからは、「こんなに詳しく説明してもらったのは初めてです。」などと言って頂く事もありますが、それは他の脳外科医には説明したくてもその時間が無いだけの話で、医者にとっても患者さんにも可哀想な状態が続いているのだと感じています。

産科医や小児科医の減少が叫ばれておりますが、減少率が最も高いのは脳外科医なのです。一般にはほとんど認知されていないと思いますが、脳外科医になろうという若いやる気のある医者が激減しているのです。それもそうでしょう。脳外科医なんて、手術時間(労働時間)は長いし時間外勤務は多いし、医療事故のリスクは高くて訴訟のリスクも高いし、そのくせ給料が高いかというとそう言うわけでもないし、平均寿命は各診療科の中でも最低だし(噂です)、離婚率は各診療科の中で最高(あくまで噂です)なんですから!

実際の数字でお示ししますと、平成8年から平成16年までの8年間に、25〜29歳の若手外科医の数は3180人から2145人へと33%減少してます。減少が叫ばれる産婦人科医で見てみますと、減少率は23%で外科系全体の減少率の方が高いのです。小児科医の場合は、若手に限ってはほとんど減少しておりません(0%)。脳外科医の場合はどうかと言うと、平成8年844人だったのが平成16年には540人。36%の減少で、外科系の中で、と言うか全診療科の中で減少率は最高です。今や脳外科医は、絶滅危惧種なのです!

そんなところへ、チャーターバスで検査希望の方々が大挙して押し寄せて来た日にゃ、日常診療が大混乱に陥る事間違いありません。それを見てビビった研修医が、脳外科への入局を断念するコトも考えられますし、脳外科医の成り手が減る事態に拍車をかけかねません!勿論検査も大切なんですが、それはそれで毎年定期的にきちんと受けて頂き、脳の健康を把握する事をお勧めしたいと思います。しかしいくら脳の中を調べたって、劣悪な生活習慣を改善しなければ何の意味もありません。

くも膜下出血が恐いのなら、脳の検査を受ける前にまずタバコはやめましょう!それだけでもリスクは激減すると思いますので。




vol.24
患者さんについて求めること

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この記事へのコメント
> くも膜下出血が恐いのなら、脳の検査を受ける前にまずタバコはやめましょう!それだけでもリスクは激減すると思いますので。

大賛成!!

残念ながら巨人のキムタクも、喫煙者だったみたいですね。
タバコを吸っていなければSAHで帰らぬ人にならなかったかも……

http://smoke-free.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-4e60.html

先日発行にこぎつけた「禁煙学 改定第二版」にも
SAHと喫煙の関係が解説されています。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/452520172X/mixi02-22/

5月の世界禁煙デーにあわせて県内講演会を開く予定ですが
その項を書かれた先生をお招きする予定です。(偶然ですが)
Posted by たらおたらお at 2010年04月16日 15:24
たらおさん、コメントありがとうございます。

先日ジムで自転車こぎながら何とはなしにテレビを見てましたら、高校生の新体操のドラマ(?)やってまして、最後に「番組の中で高校生がタバコを吸うシーンが有りましたが、高校生の喫煙は法律で禁止されています。」みたいなテロップが・・・。

なら、そんなシーン流すなよ(怒)って感じぃ〜!
Posted by samurasamura at 2010年04月18日 23:00
私の友人もバリッバリの脳神経外科医なんですが、毎日ほんとに忙しそうで、その反動?なのか、お酒飲むときはほーんとにたくさんのお酒を短時間で飲んでいます。
しかしそんな時でも容赦なく急患の電話がかかってくるらしく、タクシーで病院へ急行、という・・・。(飲酒後に手術なのか?でも彼曰く、命を救うためなら酔っていることが一瞬で飛ぶとか、うーん・・・)
休まりませんよねーこれじゃ。

専門を脳神経外科医と決めて、最初に先輩医師から言われたことが
「たとえお風呂に入っていようが、電話は必ずとれ」
ということだったそうです。
病院からの電話を取り損ねることはありえないことだ、と。
でも出張とかいろいろありますしねー。

あ、そうだ。ふと思ったんですが、女性の脳神経外科医ってなかなか見かけないですよねー。やっぱり女性には過酷なんですかねー。

とにかく絶滅したら困るので、その魅力を若い人たちも理解してほしいなと思います。
Posted by いさな at 2010年04月18日 23:33
いなささん、おはようございます。

私の知っている某脳外科医は、ゴルフの集合時間が午前4時。
「どうしてそんな時間なんですか?」って聞きましたら、「4時に来れなきゃ脳外科医じゃない」って、そんな無茶な・・・。

離島で1人で脳外科やってますと、お酒は飲めませんし(でも飲みますが・・・)、船には乗れませんし、勿論電波の届かないトコへは行けません。病院の周りでウロウロするしかない毎日で、QOLもへったくれもありませんでした。それを考えると、1人で何年もやっていくのは難しいと思いますし、医局全体が協力し合い支え合って、みんなで交代しながらやっていくしかないと思います。

ちなみに私の最初の指導医は、女性の脳外科医でした。六川教授は、「女性の方が繊細だから、女性の方が脳外科医に向いている」と言っておりましたし、凄腕の女性脳外科医もいらっしゃいますから、乗り越えることは充分可能だと思います。
Posted by samurasamura at 2010年04月20日 10:48
 
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