Dr.さむらのハイパー気まぐれ日記

さむら脳神経クリニックから脳の健康について書いていくつもりですが・・・。

腎癌の全身転移

昨日のミサミサさんのコメントを読みまして、昔携わった患者さんのコトを思い出しております。と言うコトで、本日投稿予定だったくっだらない記事は明日に回して、今日はその患者さんのコトを書こうと思います。

その方も腎癌だったのですが、手術して18年も経って腎癌なんてとっくのとうに治ったと思っていた頃に、人間ドックで肺に腫瘍が見つかり、組織診で腎癌と診断されたのです。

肺癌ではなく、腎癌! 18年も経って!!!

身体のどこかに、腎癌の細胞が息を潜めて隠れていたのでしょうか?それは私には分かりませんが、同時に下垂体と膵臓にも腫瘍が発見されたことから、腎癌が全身に転移しているモノと判断されました。私の経験では、腎癌は結構進行が遅いコトがあるのでので、頑張って治療するコトとなり、まずガンマナイフで下垂体部の腫瘍を焼きました。次に肺の転移巣を手術摘出し、最後に膵頭部に出来た腫瘍を手術で切除しました。

腎癌の全身転移

写真はガンマナイフ治療前の頭部MRIの画像です。頭を前から見た形で画像を作ってあります。この時は頭蓋内で最も放射線に弱い組織である視神経交叉を守るため、腫瘍の上1/4には充分量を照射しませんでした。

腎癌の全身転移

画像の黄色い部分は、25Gy(Gy:グレイ、放射線の単位)と言う高線量を照射した範囲を示していますが、腫瘍全体に25Gy照射すると視神経交叉も焼けてしまいますので、視神経交叉へは耐容線量(当てても副作用が出ない線量)である8Gy(緑のライン)を照射しないように治療したのです。

治療から1年半が経過した頃、最初に私が治療した下垂体部の転移巣が、充分量照射していない腫瘍の上極部分から再増大してきてしまったのです。

腎癌の全身転移

腫瘍の圧迫で視神経機能はどんどん悪くなり、とうとうぼやけてほとんど見えないような状況になってしまいました。そこで意を決して再治療を行い、視神経への被爆は度外視して腫瘍全体に強く照射することにしたのです。患者さんとご家族には、治療方針をしっかりご説明しました。
具体的には、
1.治療により腫瘍の縮小が得られれば視神経機能の回復が期待出来るが、今のままでは視神経機能は早晩廃絶してしまうと考えられる。
2.腫瘍の成長を止め視神経機能を回復させるには、前回の治療で充分な線量を照射していない腫瘍の上半分を含めた腫瘍全体に強く当てる必要がある。
3.しかしそうすると、視神経交叉にも耐容線量以上の被爆を余儀なくされる。
4.生命予後と放射線照射による視神経機能の悪化のスピードを考えると、今回の治療による視神経への副作用は心配しなくてもいいと考えられる。

治療によるメリットが、治療せずに放置し腫瘍が増大して視神経機能を悪化させるデメリットよりはるかに大きいことを充分御理解頂いた上で、視神経への被爆は完全丸無視で腫瘍全体へ18Gyを照射したのです。

腎癌の全身転移

上の写真は、治療時の照射範囲を示しています。普通のドクターから見たらもの凄く乱暴な線量計画に見えると思いますが、患者さんやご家族との信頼関係があればこそ可能だったのだと思います。最初の治療の時は、視神経交差へは8Gy以上は絶対照射しませんと言っていたのが、今回は視神経交叉に18Gy照射しますと言ってるのですから・・・。

そして治療後腫瘍は著明に縮小しました。

腎癌の全身転移


腎癌の全身転移

上の図は治療時の視野を示したモノです・治療前の視野は、左右がばらけてしまっています。つまり、左右の目がそれぞれ別の範囲を見ている状態なのです。これでははっきり見えるはずがありません。視力も、右が0.03、左が0.04と泣きたくなるようなレベルでした。

腎癌の全身転移

治療後の視野検査では、左右の視野がバッチリ重なって両眼が同じ焦点を捉えることが出来る様になっています。視力は右0.2左0.2で、矯正すると0.5、0.4まで改善し、なんと新聞も読むことが出来るまでに回復したのです。そして、亡くなるまで視神経機能が悪化することはありませんでした。

人間は、永遠に生きることは出来ません。人間の身体に「絶対」と言うコトは存在しませんが、あるとすれば「いつか必ず死ぬ」と言うことではないかと思います。先日見たビデオで、「死を意識した瞬間から本当の生が始まる」と言うような言葉が出てきました。死に至る病が発見された時、覚悟は必要だと思います。ただ諦める必要は無いと思います。今生きている時間を如何に有意義に如何に自分らしく生きるかは、その人自身が決めることではありますが、ご家族や友人など回りの人達の支えが有って初めてそれも可能になるのではないかと思います。

私の患者さんは、腎癌の転移が発見されてから亡くなるまでの約3年間、常にニコニコ笑っておられました。いつもホントにほがらかな笑顔で、私達の方が励まされ勇気づけられていました。




vol.24
患者さんについて求めること

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この記事へのコメント
MRI写真、とても参考になります。
アメリカは医療費が高く、システムが超複雑。医療費が払えなくて自己破産もありえる国です。日本のように患者の希望や、必要に応じて簡単にレントゲンやMRIができるシステムはいいな、と思いました。 
Posted by miki-mo at 2010年09月27日 04:41
「下手に希望を持つよりも、そのときまでの支度を進めた方が気が楽」
覚悟していたつもりが、なんだか私は逃げに走っていた気がします。
与えられた時間は少なくても、笑顔にすること。
厳しいときもあるかもしれませんが、頑張ってみます。

お話をアップして下さって、
本当に、ありがとうございます!
Posted by ミサミサ at 2010年09月27日 20:20
miki-moさん、コメントありがとうございます。

ブログを始めた時は、画像をもっと沢山提示するつもりだったのですが、文章中心の内容になってしまっています。画像を出した方が分かりやすい場合もあるので、今後は解剖や疾患の説明の際にもう少し画像を利用するようにしたいと思っています。
Posted by samurasamura at 2010年09月28日 23:39
ミサミサさん、コメントありがとうございます。

多くの場合初めての経験で、何をどうして良いのか分からずにいることもあるのですが、3月17日の記事などは参考になるかもしれません。私でお手伝い出来ることがあれば、何なりとお申し付け下さい。
応援しています!
Posted by samurasamura at 2010年09月28日 23:44
 
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コメント

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