傍腫瘍性神経症候群(PNS)とは?がんが引き起こす神経系への影響

samura

2024年11月09日 06:06

んはその部位だけでなく、体全体にさまざまな影響を及ぼすことがあります。その一例が傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome; PNS)です。PNSは、がん患者の体に表れることがある、がんが直接神経に作用していないにも関わらず発生する神経症状です。この記事では、PNSの症状や原因、関連するがん、診断法や治療法について詳しく解説します。



傍腫瘍性神経症候群のメカニズム
傍腫瘍性神経症候群は、がんが体内にあることによって免疫系が異常反応し、神経系を攻撃することで発生します。がん細胞は通常、体内に存在しない異常なタンパク質や抗原を持っていることが多く、免疫系がそれらを「異物」として認識し攻撃します。しかし、がん細胞の抗原の中には正常な神経系の抗原と似たものが含まれる場合があり、免疫系が誤って神経細胞も攻撃してしまうのです。このため、がんのある部位とは離れた脳や神経、筋肉に神経障害が現れることがあります。



傍腫瘍性神経症候群を引き起こす主ながんの種類
PNSは、特定のがんに関連して発生することが多く、肺がん(特に小細胞肺がん)、乳がん、卵巣がん、悪性リンパ腫などが原因となるケースが多いです。

小細胞肺がん:PNSの発症率が高く、特に脳や脊髄に関連する症状を引き起こします。
乳がん:神経炎や感覚異常が現れることが多く、乳がんの早期発見のきっかけとなることもあります。
卵巣がん:自律神経障害や脳の炎症を引き起こし、婦人科がんの中でもPNSに関連することが多いがんです。
悪性リンパ腫:免疫系が関与するがんなため、末梢神経障害や自律神経障害が現れることがあります。



傍腫瘍性神経症候群の症状
PNSの症状は非常に多様であり、影響を受ける神経系の部位によって異なります。ここでは、神経系の部位ごとに分けて代表的な症状を紹介します。

1. 中枢神経系
脳や脊髄が影響を受けた場合、以下のような症状が現れます:
小脳変性症:小脳が徐々に損傷し、ふらつきやバランス感覚の低下が見られます。
辺縁系脳炎:記憶障害や精神症状(錯乱や幻覚)などが発生し、脳の記憶や感情を司る部分が影響を受けます。
脳脊髄炎:脳や脊髄に炎症が広がり、意識障害や四肢の麻痺、筋力低下が見られます。

2. 末梢神経系
末梢神経が影響を受けた場合、手足の痛みやしびれ、筋力低下が主な症状です:
傍腫瘍性感覚ニューロパチー:手足のしびれや感覚異常が現れます。感覚神経が損傷されるため、痛みや熱さなどの感覚が鈍くなります。
ランバート・イートン症候群:筋力低下が特徴で、特に四肢の筋力が入らなくなります。筋力が徐々に回復する傾向も見られます。

3. 自律神経系
自律神経系のPNSでは、体温調整や消化機能、血圧の調整に関わる神経機能が影響を受けます。
傍腫瘍性自律神経障害:血圧や心拍数の異常、消化器系の症状(吐き気や便秘)などが見られます。体の内部環境の調整に広範囲の影響を及ぼします。

4. 筋肉・視覚
筋肉や視覚に影響が出るケースもあり、筋肉の異常や視覚障害が現れます:
スティッフパーソン症候群:体の筋肉が硬直する疾患で、体がこわばり、動作に支障が出ます。全身の「こむら返り」とも言える状態です。
傍腫瘍性網膜症:視力低下や視野欠損、光過敏が見られます。網膜が影響を受けるため、視覚障害が進行する場合もあります。



傍腫瘍性神経症候群の診断
PNSの診断は、患者の症状や神経学的な所見に基づいて行われます。以下のような検査が用いられます:

神経学的検査:身体的な反応や動作の異常、神経の働きのチェックが行われます。
血液検査:PNS特有の抗体(抗Hu抗体、抗Yo抗体、抗GAD抗体など)があるかを調べます。
画像診断:MRIやCTスキャンで脳や脊髄、末梢神経に異常がないかを確認します。がんの有無も確認されます。
脳脊髄液検査:脳脊髄液を調べることで、炎症や異常な抗体がないかを確認します。
PNSの症状が出ている場合、がんが既に発見されていることもありますが、まだ見つかっていない小さながんが原因となっている場合もあるため、精密な検査が行われます。



傍腫瘍性神経症候群の治療法
PNSの治療には、原因であるがんそのものを治療することが最も重要です。がん治療によってPNSの症状が軽減されるケースも多いため、がんの外科的切除や放射線治療、化学療法が行われます。

また、がん治療に加えて、PNSの症状そのものを和らげるための治療も行われます。以下がその例です:

ステロイド療法:免疫反応を抑え、炎症を軽減するために用いられます。
免疫抑制薬:免疫反応をさらに抑え、神経系への攻撃を軽減します。
免疫グロブリン療法:血液から取り出した抗体を点滴で投与する方法で、症状を軽減させる効果が期待されます。
血漿交換療法:血液の中の異常な抗体を取り除くための方法です。
リハビリや理学療法も組み合わせることで、筋力の維持や痛みの軽減が図られることがあります。



傍腫瘍性神経症候群と早期発見の重要性
PNSは、がんの症状が現れる前に発症することもあるため、原因不明の神経症状がある場合にはがん検査が推奨されます。早期発見により、がんの治療が早期に開始できるだけでなく、PNSの症状の進行を防ぐことが可能です。がん患者が体に異変を感じたとき、PNSを考慮した精密検査を受けることが推奨されます。

まとめ
傍腫瘍性神経症候群(PNS)は、がんに伴う免疫異常で起こる多様な神経症状を持つ疾患です。がんそのものが神経を侵すわけではなく、免疫の過剰反応が神経系を攻撃するため、全身に多岐にわたる影響が現れます。PNSの症状があることで、がんの早期発見につながる可能性もあります。

原因不明の神経症状が見られる場合、PNSの可能性を考慮し、適切な検査と治療を受けることが健康を守るために重要です。

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