Dr.さむらのハイパー気まぐれ日記

さむら脳神経クリニックから脳の健康について書いていくつもりですが・・・。

神経血管圧迫症候群

三叉神経痛は、多くの場合血管の圧迫によって神経が刺激を受け、その刺激が脳に伝わることで激しい痛みが生じるとお話ししました。

感覚神経ですから、体から脳の方向に向かって神経の連絡が伝わります。三叉神経の場合、神経がコツコツ叩かれる刺激は脳へ伝わり痛みとして感じられますが、もしこれが運動神経だったとしたらどうでしょう?

運動神経は、脳からの命令を筋肉へ伝えます。その途中で全く関係のない刺激が加えられ、それが筋肉へ伝えられたら・・・。顔面神経は、脳の刺激を顔の表情を作る筋肉へ伝えますが、脳血管が顔面神経を圧迫した場合は、脳が命令を発していないのに表情筋へ「収縮しなさい」と言う命令が伝わってしまいます。そうすると、片側顔面がビックンビックンけいれんするかのように動き出すのです。このような疾患を顔面けいれんと言います。

このように、血管が脳神経を圧迫し激しい痛みを感じたり筋肉がけいれんしたりする病態を、神経血管圧迫症候群と言います。外見上は全く違った症状が起こりますが、血管が神経を圧迫していることで生じてくる病態で、原因は同じなのです。

さて治療ですが、まずは薬物療法が行われます。血管で刺激された神経の興奮を、お薬で抑えようというのが目的ですね。薬物療法の良い点は、薬の量を増やしたり減らしたり、種類を変えたりといった調整が自由自在に出来ると言うことです。第一選択は、テグレトールというお薬です。これはてんかんの患者さんに飲んで頂く、けいれん発作を止める薬(抗けいれん剤)です。けいれん発作というのは、脳神経の異常な興奮が脳の一部または全体に波及した状態で、てんかん発作を抑える薬は脳の興奮を抑える効果があるのです。三叉神経痛や顔面けいれんでは、血管圧迫によって生じた異常な脳神経の興奮を抗けいれん剤によって抑えようというわけです。

この薬、よく効きますが副作用の頻度も高いのが玉にきずです。脳の興奮を抑える薬ですが、逆に効き過ぎると脳の働きが弱まる(?)わけで、眠くなったりボーッとしたり考えがまとまらなくなることがあります。また、アレルギーで薬疹が出たり、めまいやフラつきが出ることもあります。私は頚椎ヘルニアの痛みがひどい時、何を飲んでも効かないものですからテグレトールを飲んでみたのですが、かなりフラフラしました。「患者さんがよく言うテグレトールでフラフラするってのは、これかぁ!」と、実際に身をもって体験させられました。

テグレトールは90%以上の効果が期待出来ますが、徐々に効きが悪くなってくることもあるようです。おそらく、年々動脈硬化が進行し血管の圧迫が高度になってくるため、薬の効果が落ちてくるのだと思います。薬物療法で効果がなかったり、副作用その他の理由で薬物療法が継続出来ない場合、次のステップを考えなければなりません。三叉神経痛の場合、次のステップに進む際の選択肢は3つ考えられます。手術、神経ブロック、ガンマナイフ治療です。

まず神経ブロックですが、三叉神経を薬で殺してしまう治療ですので、うまく行けば行くほど三叉神経痛は治まりますが患側顔面の感覚もなくなってしまいます。強い痛みは苦しい症状ですが、感覚がなくなってしまうと言うのも苦しいことなので、ブロック療法を行うドクターはあまり引き受けてくれません。出来るだけ神経ブロック以外の治療法で治療して下さいと言うことなんですね。私もあまりお勧めはしていません。

ガンマナイフ治療は、三叉神経に80〜90Gy(グレイ:放射線の単位)と言う、とてつもない高線量を照射して三叉神経の痛覚繊維を潰してしまう治療です。痛覚を伝える神経線維は、触覚や温覚など他の感覚を伝える神経線維より細くて脆いので、一定の線量を照射することで最も弱い痛覚繊維のみを潰してしまうことが出来るのです。とは言っても、他の感覚繊維を傷つけてしまうこともありますので、術後の副作用としてしびれが出たりすることもありますが、感覚がすべて無くなると言うことはまずありませんし、体に対するストレスが少ないのでご高齢の患者さんでも安全に治療することが出来ます。

顔面けいれんの場合、顔面神経を薬や放射線で潰してしまうと「けいれんは治まったけど顔が麻痺しちゃったぁうわーん」ってコトになってしまいますので、神経ブロックやガンマナイフ治療は使えません。後は手術療法のみですが、神経を圧迫している血管を神経から引っぺがし圧迫を解除する「神経血管減圧術」と言う手術が行われます。原理は単純ですが、脳幹付近の神経や血管を直接操作する、経験と卓越した技術が要求される術式ですので、達人にお願いしなければなりません。

ご心配なく。勿論沖縄にだって、神の手に匹敵する様な達人がいらっしゃいますよ!




vol.24
患者さんについて求めること

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この記事へのコメント
こんにちわ。
実は自分も事故の後遺症で脳に血腫ができ、小学生から高校生まで痙攣止めの薬飲んでました。毎月の脳波検査もしてました。
薬は自分は眠くなるのと、薬疹が出たりしてました。
成人して異常なく今は薬飲んでないのですが…。
痙攣も小学生依頼ないので。
頭痛だけは相変わらずありますがf^_^;
Posted by 櫻宝 at 2009年12月04日 12:52
櫻宝さん、貴重なコメントをありがとうございます。

やはり、けいれんを止めるお薬は、脳の活動を抑えて眠気が来てしまうのでしょうか・・・。特にフェノバールというお薬は、かなり眠くなるので授業中居眠りして成績が下がってしまわないよう注意が必要ですね。

外傷で血腫が出来けいれんの既往もあるのでしたら、時々脳の検査もしておいた方がいいかもしれませんね。

私も長いこと頭の検査をやっていないので、そろそろ脳の中でも見ておこうかと思ってます。
Posted by samurasamura at 2009年12月04日 21:38
 
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