日頃の行い

samura

2012年03月22日 01:14

春分の日でお休み。誰もいないクリニックで一人お昼ご飯を食べながらテレビを見ていたら、「刺さったトゲが血管に入って心臓に刺さるコトがある?」みたいなクイズをやっていて、ブラックチャック ブラックジャックでも確かにありましたよ、はい。昔読みました。折れた注射針が血管の中を心臓に向かって進んでいって、ブラックジャックが手術で心臓に刺さるのを阻止しようとするんですが、間に合わない! 針が心臓に刺さるかと思われたその時、何故か針の進路が変わって「人間の防衛本能って凄いなぁ」みたいな内容だったと思います。うる覚えですが・・・。

そもそも点滴中に注射針が折れるなどと言うコトがあり得るとは、とても思えません(たぶん)。手や足の血管から点滴する時は翼状針(トンボ針)かエラスター針を使いますが、




エラスター針は柔らかい外筒だけを血管内に留置しますので、折れて血管の中を流れていくなどと言うことはありません。




ブラックジャックに登場した注射針は翼状針の方でしょうか?





万が一患者さんが暴れたりして刺入部に外力がかかったとしても、針が折れる前に抜けるはずです。手や足の血管からは高濃度の点滴を流すことは出来ませんので、高カロリーを点滴で入れたい場合は心臓の近くまでチューブを入れておく必要があります。鎖骨下静脈からチューブを留置する場合は、こんな感じ。



手足の血管から点滴取るのとは違って、心臓の近くまでチューブを入れるのは結構大変です。狙う静脈は鎖骨の下を走っているので、手足の血管と違って当然見えません。だいたいこのあたりを走っているだろうと解剖の知識を総動員して、ぶっとい針をずぶずぶと刺していくんですが、間違えると鎖骨下動脈を刺したり肺を刺したりして大変なことになってしまうこともありますので、1回入れたら抜けてしまわないように縫合して固定します。チューブを皮膚に縫い付けて留めるわけです。私は20回くらいしつこく結び目を作って多少引っ張られても抜けたりしないようにしっかり固定していたんですが、それが裏目に出たんでしょうか、今を遡ること20年ほど前のある日の夕方、鎖骨下静脈からチューブを入れていた患者さんがチューブを引っ張って抜いてしまったんです。普通なら全部抜けてしまうところが、わたくしが超厳重に固定していたせいかチューブが途中でちぎれてしまった様なんです。病室に駆けつけてみると、ちぎれた先のチューブが見あたりません。

岸壁の母じゃありませんが、もしやもしやにひかされて胸部レントゲンを撮ってみますと、げぇぇぇっ(驚)!ちぎれたチューブの先端が心臓の中に落っこちているじゃありませんか。「人間の防衛本能はどうなったんだぁ、ブラックジャックぅ!」と叫びたくなるのをグッと抑え、善後策を検討します。切れたチューブを回収するために、心臓開けるかぁ? 頭開けるのは得意なんですが、心臓は無理無理。

そして・・・、

悪戦苦闘したあげく、とうとうインポッシブルなミッションを成功させました。足の根本の大腿静脈から心臓までカテーテルを上げていき、鼓動に合わせてピッコンピッコンとリズミカルに跳ねているチューブに引っかけて右心室から引きずり出し、足の根本まで持って来てエイヤッ!と気合い一閃力任せ(?)に引っこ抜いたのです(またも最後は力わざ)!

わたくしの日頃の行いが良かったおかげで、無事回収出来ましたとさ(日頃の行いが悪かったからこんな目にあったのでは?)。


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